私は以前、美容師と予約したい人をつなぐCtoCアプリを企画開発する新規事業チームにいたことがあります。美容師業界について勉強したり現役美容師にインタビューしたりする中で、美容師さんが持つ課題は多く根深いものであることを知りました。
SNSで人気を集めるインスタグラマー美容師やシェアサロンの登場など、美容師を取り巻く環境が大きく変わりつつある今、新しいスタイルで人気の美容師や業界内外から注目を集めているのが、完全個室型美容モールで美容師の独立を支援する「THE SALONS(ザ サロンズ)」。注目のそのビジネスモデルや目指すものをTHE SALONS代表の清水さんと取締役の窪島さんに伺いました。
「美容師業界は今、激動の時代である」ということ
美容師の雇用形態
近頃、働き方改革によりフリーランス、複業、リモートワークなど、正社員として会社に属していた人々の働き方が多様化しているというニュースをよく耳にしますが、同じように美容師も、フリーランス、業務委託、セミナー講師や商品開発との複業など働き方の幅が広がっています。
その要因として、サロン所属美容師の所得が上がりづらい仕組みや、 SNSの普及が大きく関係しているようです。
サロンに所属している美容師の給与は、ほとんどの場合「基本給+売上に応じた歩合制」です。そのため、SNSなどを駆使して指名客が増えた人気美容師は売上が伸びるほどサロン側に入れる金額も増えるというジレンマを抱えます。
指名客からの予約だけで月間の売上げが見込めるようになった美容師がフリーランスや業務委契約で働くケースがここ数年とても増えています。
もちろん自分でサロンをオープンするよりも金銭的なリスクは少なく「独立」という形をとることはできますが、独立後もシェアサロンを利用すれば引き続き月売上の25%程度+基本使用料はシェアサロン側に支払うという仕組みは続きますし、お客さまから予約が入った時にシェアサロン側の席が埋まっていたら予約を断らなければならないということもあります。
サロンとの業務委託契約を結んでいる美容師の場合は、施術単価がお店で決まっているため単価を上げたくても上げられないなど、身軽になる反面それぞれの課題もあるんです。
多くの美容師が目標とする「自分のお店を持つこと」の現実
独立して自分のサロンを構える美容師も多くいますが、実は今、日本全国の美容室はコンビニの約4.5倍の約25万箇所に存在します。
あわせて、2019年1~10月期の美容室倒産件数は92件(前年同期比29.5%増、前年同期71件)、すでに1~10月期累計は2000年以降で過去最多を記録しており、年間でも2018年に記録した過去最多の95件を更新する可能性が高くデータからも美容師業界の激しさが読み取れます。
誰もが実際サロンを開くときには売上、利益を伸ばし続けることは大前提と考えますが、そのためには集客や接客のスキルだけでなく、出店戦略、資金繰り、マーケティング、リクルーティング、マネジメント、PRなどについて自分の店に合わせた戦略を立てて随時調整することが必要になります。
ですが、日々サロンワークやSNS運営をしながら経営やサロン運営について勉強するのは至難の技のようです。
いつか独立しようと努力している美容師でも、自分の指名客だけで売上が見込めるようになるのと、経営者としてサロンを開き成長させ続けられる自信は比例しません。
また、最近では目の前で廃業する美容室もたくさん見ているため「自分のサロンを持つ」という目標を断念する美容師は少なくないんですよ。
僕自身も店を持つことが目標で美容師になったので、同じような美容師が店を持つことを諦めているという現状はどうにかしたいと常々考えていました。
「THE SALONS」でできること
前段までにお伝えしたような業界の現実を打破し美容師の所得と社会的地位を向上させたい、とTHE SALONSを立ち上げたのが現役美容師の清水さんとIT分野に精通した窪島さん。

THE SALONSを使う美容師は、物件探しや設備、備品手配などに時間をかけずにローリスクで自分のサロンをオープンできるといいます。
「THE SALONS」とは
その理由はTHE SALONSのビジネスモデル。
THE SALONSでは商業ビルの1フロアをいくつかの個室に区切り、基本設備を整えて独立を希望する美容師に貸し出しています。
美容師は契約時に4ヶ月分の賃料を支払えば、初期費用(敷金、礼金、基本設備購入費)無しで、あらかじめミラー2面、椅子2席、シンク1台、フルフラットバックシャンプー1台が設置された個室にサロンをオープンすることができ、数千万単位の大きなお金を借り入れる必要はありません。
(1室約15㎡〜16.5㎡、月額賃料は29千円〜。月々の賃料には電気、ガス、水道、レンタルタオル300枚が含まれます)
また、独立したての美容師のサポートになればと、経営やプロモーション、マーケティングなど、お店の運営に関して困ったことがあれば随時相談も受け付けています。
2019年5月、表参道にオープンしたTHE SALONSのフロアには、美容室をはじめエステサロン、まつげエクステサロンなど11のサロンが並び、定着率は100%。有名美容室出身の超人気美容師が多く出店し、現在もキャンセル待ちや内覧希望者からの問い合わせが絶えないそう。
12月に銀座2丁目にオープンした2店舗目も好調で、フロアの内装が出来上がる前から複数店舗が埋まっていたといいます。
共同経営者であり友だち。美容師×ITビジネスのプロ
代表の清水さんと取締役の窪島さんは、元々友人関係だったそう。
アメリカでは主流になりつつあるこの美容室モールに以前から注目していた清水さんが、ロサンゼルスに視察に行く際、窪島さんが同行したのがきっかけでTHE SALONS構想を一緒に進めることになったといいます。

ロスで現地のサロンを視察している時、こどものように目を輝かせる清水を見て、美容師業界って面白いんだなと改めて思いましたね。
以前から美容師業界のことについては清水から色々聞いていましたし、課題感も共有してもらっていました。
僕はずっとIT分野で仕事をしてきて、その課題に対して何か解決方法があるんじゃないかと思ったし、清水の美容師業界を良くしたいという情熱にも心を動かされTHE SALONSを一緒にやろうと決めました。
信頼しているからこそ阿吽の呼吸で進められるという2人。それぞれの役割についても伺いました。
清水は会社の代表として、店舗開発などのハード面や美容師対応をメインに行っています。THE SALONSの出店場所や内装についても清水にまかせているし、出店したばかりの若手美容師からは経営者の先輩として相談を受けることもすごく多い。
僕はファイナンスやシステム、広報などを担当しています。
先日、THE SALONS Lab(ザ サロンズ ラボ)」という美容師の独立支援プラットフォームのティザーサイトもオープンし、近日中には美容師向けアプリもリリースする予定です!
相談や意見交換は頻繁にしますが、信頼関係ができているので基本的に専門分野はお互いに一任しています。
THE SALONSとしての共通の判断基準は「美容師ファースト」であるかどうか。それだけです。
今後は、THE SALONSの新店舗出店の他、フランチャイズ展開も検討中だそう。また、大手百貨店などからの出店相談もあるといいます。
美容師の独立開業を支援するTHE SALONSの登場によって美容師業界のデータは今後3年、10年でどう変化していくのか、その動向から目が離せません。
取材を終えて
経営者同士であり、飲み仲間でもある清水さんと窪島さん、それぞれの持つ得意分野と共通の想いがTHE SALONSの土台なんですね。
お話を伺いながら、自分のサロンを持つという目標を持った美容師やビューティシャンがが1人でも多くその夢を実現できたら素敵だなと思いました。
清水さん、窪島さん、ありがとうございました!!
参考
THE SALONS
https://www.thesalons.co/
THE SALONS LaB
https://lab.thesalons.co/
美容室数・美容室倒産数データ出典元
東京商工リサーチ 2019年(1〜10月)「美容室」の倒産状況
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20191111_03.html